『田園の詩』NO.33 「田舎と都会」 (1995.10.10)


 自分の小さな世界のことしか知らず、考えや見分の狭いことを譬えて『井の中の蛙
 大海を知らず』という諺のあることはあまりにも有名です。

 井の中を田舎、大海を都会と置き換えれば、田舎の人は世間が狭く、都会のことも
あまりよく知らないという意味にもなります。

 しかし、こんな解釈ができたのは昔のこと。テレビなどのマスメディアの発達した現
代、都会の情報は大量に田舎に押し寄せてきます。反対に、田舎の情報は、それほど
都会に伝わっているように思えません。だから、都会の人が、田舎を知らない時代に
なってしまったようです。

 どこかの町(あるいは村だったか)で『大海のクジラ、井の中を知らず』というパロ
ディーの諺を作って、地域おこしの活動を進めている所があると聞きました。逆転の
発想ともいえるこの諺(?)を、都会の人は笑って済ますかも知れませんが、現実の
姿を鋭く指摘した言葉でもあるのです。

 どちらにしても、田舎の人が豊かに生活するためにも、都会の人が食糧や環境など
で不安を抱かないためにも、お互いに相手方の情報を知ることは大切なことです。

 しかし、それだけでは充分といえないでしょう。『百聞は一見に如かず』といわれて
いますが、この時代、見たり聞いたりすることはいくらでもできます。私はずっと前
から『百見は一験に如かず』と考え、生活の規範としてきました。

 その意味で、自分が今住んでいる所と違う場所で一時期でも生活をしたことのある
人は、大変貴重な体験を持っているといえます。たとえ、そんな幸運な機会を持てな
かった人も、これからの時代、積極的に現地を訪れる経験が必要だと思います。


      
    合併して、わが山浦の≪雲ヶ岳≫が、杵築市で最高峰の山になりました。地元の人が
    登山道を切り開き気軽に登れるようになりました。小学校の先生や移り住んできた人、
    地元の有志で、更に登りやすくするために山道に案内板を設置しました。私はシャッター
    を切ったので写っていませんが、同じようないで立ちでした。
     集合は何と朝6時。後方が≪雲ヶ岳≫(654m)です。 (08.7.30写)



 Uターンする人や移り住んで来る人は、田舎にとって大変貴重な人材なのです。彼
らと、都会に出ることはなかったが郷土に愛着を持ち、しっかりと根を下して頑張って
いる人達とが、お互いに融合して活動している地域は生き生きとして輝いています。

 そんな田舎が増えつつあります。             (住職・筆工)

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